あなたに映る花

斎藤様が剣呑な顔つきで女性を見る。

女性はその視線に体を揺らすけど、負けじと見返した。

「あ、あんた達に罪もない子を渡すなんて、この子がどうされるか分かったもんじゃないよ!」

そう言い放つと、女性は私の手を引く。

だけど斎藤様も離さない。

「は、離しな!」

「出来ねえな」


……ラチがあかない。

私は、女性に向き直る。

「わた、じゃなくて俺なら大丈夫ですから…。離して下さい」

私の言葉に虚を突かれたような顔をした女性は、慌てたように私の手を引く。

「な、何言ってるんだい!この連中について行くなんて、正気の沙汰じゃない!」

尚も離そうとしない女性に、夕霧様がゆっくりと近づく。

「……俺達は別に何かをする気はない。今は非番だ。これはあくまでも個人的な付き合いであり、決して罪を問うわけではない。……そうだな、景」

な、名前知ってたの…?

そのことに驚きながらも、私は必死に頷いた。

「は、はい、そうです!なので、心配しないで下さい!」

とびっきりの笑顔で言うと、女性は渋々ながらも手を離してくれた。

「…そうかい。だけど、なにかされたらすぐ逃げるんだよ?」

そう言い残して去っていく。


< 118 / 168 >

この作品をシェア

pagetop