あなたに映る花

「…大事ないか」

夕霧様が私を見て呟く。

「は、はい………あの」

私は、まだ手首を握ったままの斎藤様を見る。

「先程の方…何故あんなに頑なだったのでしょう?」

そう問い掛けると、斎藤様は疲れたようなため息をつく。

「…さっきも言ったが、八丁堀では人が死ぬことがある。大抵は取り返しのつかないくらい狂った奴とか、殺らなきゃこっちが殺られる時だ。別に斬りたいわけじゃねえが、こっちだって死ぬわけにはいかねえ。となれば相手を殺すしかないんだよ」

斎藤様の言葉に、夕霧様が相変わらずの静かな声で続ける。

「…不可抗力とはいえ、町人を斬っているのだからな。嫌われ憎まれるのは当然だろう」

間宮様が困ったように斎藤様を見た。

「あんな素人の相手なんて僕達同心に任せておけばいいのに、弓鶴君が全部斬っちゃうんだもん。元々目立つ容姿だし、どんどん噂が広まっちゃって。付いたあだ名が『人斬り役者』。役者より美人だからね、この人。で、人斬り"役者"の"小姓"の僕らもまとめて『三つ刃(やいば)』って呼ばれるようになっちゃったんだ」


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