あなたに映る花
「恐いから足を止めて、それで何かが変わるわけないんです。恐くてもなんでも、私は……貴方を知りたいと思うことを止めたりしません。とても贅沢で自分勝手な願いでも」
今度は真っ直ぐ斎藤様を見る。
漆黒の瞳に浮く感情の色に向かって呼び掛ける。
「ですから…私は逃げません。嫌といわれてもついて行きます」
――その場を包む静寂。
「――なんて女だ」
不意に沈黙を破ったのは、呆れたような吹っ切れたような声。
「初めて会ったときは男慣れしてない子供だと思ってたが……。末恐ろしいったらありゃしねえ」
そして、手を引かれる。
――今度は、手首ではなく手を握られて。
「え?え?」
あわてふためき斎藤様を見る。
「さ、斎藤様。一体どちらへ…」
「弓鶴だ」
……え……
斎藤様が振り向く。
「どうせなら名前で呼べ」
――魅せてくれたのは、この上なく不敵な笑み。
それでも心が弾むのは、なぜだろうか。