あなたに映る花
帯に触れたり、生地を触ったりしていると、不安そうな声が降ってきた。
「…気に入ら、なかったか?」
顔を上げると、珍しく眉を下げた弓鶴様がいる。
私は慌てて首を振った。
「そんなことないです!とても…」
もう一度振り袖を見て、その美しさに顔が綻ぶ。
「とても、嬉しいです」
そう言うと、弓鶴様がほっと息をついた。
「良かった…」
「で、でも、あの…これ、とても高いものじゃ…」
先程から気になっていたことを口にすると、間宮様が笑顔で弓鶴様の肩に寄り掛かる。
「気にしなくていいよ。与力の給金って結構あるのに、この人そんなに遊ばないし必要最低限の物しか買わないし。八丁堀の屋敷だけは上司に『示しがつかないから』ってでかいの作らされてたけど、その維持費差し引いても全然お金は余ってるから」
弓鶴様が鬱陶しそうに肩から間宮様を振り落とす。
「…なんでテメエが答えてんだよ」
「だから、たまにはお酒おごって下さいよ」
「お前ら二人ともザルな上に、夕霧はともかく間宮は加減無しに呑むじゃねえか。俺の懐を丸裸にするつもりかこの野郎」
「そんなこと言って、自分が一番呑むくせに。ワクが何言ってるんですか」