あなたに映る花
「――お、そうだ。景」
「はい?」
勘定を済ませ、店から出ようとしたとき、呼び掛けられ足を止める。
すると弓鶴様は私に目線を合わせる。
目の前にある夜色の瞳に心が跳ね上がった。
彼は笑いながら、懐から紙に包まれた何かを取り出す。
それを目にした私は、顔が綻ぶのを止められなかった。
「わあっ……!」
それは、銀の柄に象牙を薄く削って彩色した桜の花が咲いた美しい簪。
「気に入ったか?」
「はい!…でも…」
いいのだろうか。
これだってきっと安くはないはず。
いくら懐に余裕があるからといって、赤の他人の私にわざわざお金を浪費するなんて……
「…どうして、ですか?」
「ん?」
「どうして、私にこんなによくして下さるのですか…?」
期待してはいけない。
そう心に言い聞かせながら聞くと、彼は途端に口を閉ざす。
……聞いては、いけなかったのだろうか。