あなたに映る花
「そ、れは…他の方に嫁ぐ、ということですか…?」
「うむ。相手の方はお前と四しか歳が違わぬ上、大変出来た方だ。なにしろ、次期将軍とも謳われる秀才、徳川通直(みちただ)様なのだからな」
……将軍家?
将軍家!?
「徳川って…え!?江戸城にいる徳川ですか!?」
びっくりして声が裏返る。
「そうだとも。通直様はお前を是非側室にと言って下さっている。外様である私の娘が、将軍家の有力な跡継ぎ候補である通直様の側室になるなど、願ってもないことだ!」
父上は喜びを隠そうともせず、私に容赦ない一撃を叩き込んでくる。
「婚礼は一月後だ。今の内に、楽しめることは楽しんでおきなさい」
心はボロボロのまま私は曖昧に頷いて、父上の前を辞した。
「――橘様の縁談話ではなく、徳川様との婚姻の通達でしたか」
自室で待っていた凛に、私はぐずりながら先程のどんでん返しを洗いざらい話した。
「はぃ…もう、いやになります……」
返して貰った振り袖を見つめながら鼻をすする。
これを頂いてから三日…。
まさかこんなことになるなんて、予想だにしなかった。