あなたに映る花
「に、逃げるったってどこへ行くんですか!?」
凛の切羽詰まった囁き声に、男のくぐもった声が返す。
「俺は、ある者に頼まれてここに来た。その者は、そこの姫をよく知っている」
「わ、私を、ですか?」
戸惑いがちに尋ねると、男が頷く気配がした。
……このままここにいれば、命が奪われかねない。
この人についていくのは危険極まりないけど、まだ生き残る可能性がある。
答えはひとつしかなかった。
私は凛に向き直る。
「行きましょう、凛。ここにいて良いことはひとつもありません」
真っ直ぐに凛の目を見た。
揺れ動く凛の瞳が、次第に落ち着きを取り戻す。
「――敵いませんね、姫様には」
その言葉には、少しの笑いが乗せられていた。
しばらく私達のやり取りを見守っていた男は、抱えていた包みを私の前に置く。
「とりあえず、これに着替えてくれ。姫の方は寒いだろうし、侍女の方は目立つ」
私と凛は、こくりと頷いた。
私は自分の前に置かれた袋を解くと、中に入っていた振り袖を身につける。
凛も小袖を手早く着付け、私の髪を適当に束ねた。
準備が出来たのを見てとった男は、私に手を差し出す。