あなたに映る花

「そのような、こと……」

呆然とする私を背にし、凛が声を荒げる。

「そこまでしてまで姫様を手に入れようとするなど!!この外道!!」


――パンッ!

小気味よい音が響いた。

「……っ!」

噴怒の表情の夕霧様と、頬を押さえる凛。

……夕霧様が……

凛を、殴った……?

我を忘れたような怒りの瞳に、私は精一杯の声を出した。

「夕霧様ッ!」

「―――!?」

はっとして我に変える夕霧様。

頬を押さえて睨む凛を見ると、驚きと後悔の入り混じった顔で手を伸ばす。

「す――すまなかった。考えるより先に、体が動いてしまって……!」

だけど、凛はその手を払った。

「さっ、触るな!この人殺し!」

夕霧様は払われた手をしばらくじっと見つめると、やがてゆっくり下ろす。

「……はやとちりをするな。先程言ったことを覚えていないのか」

嫌に冷静な態度に、凛が声を震わせる。

「な…何のことよ…」

…今まで私達を黙って見ていた間宮様が、可笑しそうにしながら呟く。

「…今回のことは、君を連れ去るだけが目的じゃない。さっき言ったでしょ?『弓鶴君が解放される』――って」



< 158 / 168 >

この作品をシェア

pagetop