あなたに映る花
「…え…」
私はそっと弓鶴様を見る。
彼はため息をつくと、そっと黒い頭巾と装束に手を掛けた。
「――『徳川通直』は、側室との床入りに向かう途中で左胸を銃に撃たれて死んだ」
そして、掴んだそれらを力付くで引きはがす。
「……!?……」
声が出なかった。
黒の下から現れたのは、真っ白な衣装に左胸を彩る深紅。
そして、いつもはうなじで束ねてあるのに、髷に結われた黒い髪。
いつのまにか隣に居た凛を見ると、彼女も驚愕に目を見開いていた。
声も出ない私達を見ながら、弓鶴様が言葉を続ける。
「俺はこの一月、与力をこいつら二人に任せていた」
そう言って間宮様達を見た。
夕霧様は無言で頷き、間宮様は喉の奥で笑う。
「最初は驚いたよ。『明日からお前ら与力やれ』なんてね。しかもその三日後に銃を渡されて、徳川通直を――自分を殺せ、だなんて」
くすくす笑いながら言っているけど――
その言葉が意味する事に、私は身震いした。
「で、では…弓鶴様が…」
夜色の瞳を見て――背筋に緊張が走る。
底の見えない深い威厳をたたえた光。
上に立つ者の絶対的な輝き。