あなたに映る花
なだめるような声と私の背を撫でる手つき。
弓鶴様の腕の中に収まり、トク……と心音だけが響く。
「俺が捨てたもんなんざ、お前と比べたら毛ほどの価値もねえ」
降ってきた言葉をじんわりと心が吸い取る。
「俺はお前の全てを取り上げた」
「そん…な…」
「つまり、それはお前が俺にしたと思っていることと同じことだ」
鼓動が早くなる。
私の全てを、弓鶴様が奪った…?
「…奪われたものなんて、何もありません」
育ての親も、屋敷も、結婚相手も、使用人や侍女も、着物も簪も…
全部、誰かから与えられたもの。
そう言うと、弓鶴様が笑う気配がした。
「そんなの、俺だって同じだろうが。将軍の継嗣(けいし)候補の座だって、仕えてる奴らだって、使ってる物だって…名前だって将軍の息子だから付けられた大して意味のねえ仰々しい名前だ」
ギュっと、私を包む腕の力が強くなる。
「元々持ってなかったもん返して何が悪い。自分で手に入れられるもん掴んで何が悪い。俺が欲しかったのは、将軍でも、どこぞのお姫様でも、百姓から搾り取った金でもねえ」
弓鶴様は私からゆっくりと身を離し、真っ直ぐ見つめてきた。