あなたに映る花

「俺が散々苦労と知恵積み重ねて作ってきた『与力』っつう立場と、体張って稼いだ金、徹夜で考えた名前、必死で手柄立ててようやく認めてくれた仲間の間宮と夕霧、あと――全力で口説き落としたお前」


「―――っ」


呼吸が止まる。

微動だにしない私を見つめたまま、弓鶴様が続けた。

「他に欲しいものなんてない。もう十分すぎるほど、両手に沢山の物を掴んでる。…もう持ち切れねえよ」

彼の大きな手が――身分の高い甘やかされて育った男性の手とは違う、沢山色んな物を掴んで離して来た手が、私の手を包む。



「お前と俺の気持ちはおんなじだろ」

「……え…」

弓鶴様の指が私の頬をツ……と撫でる。

「景の見せてくれた涙がその証だ」

「どういう…ことですか…?」

「もしお前が俺を嫌っていたら、お前のものを俺が奪ったことに対して怒りを覚えないはずがねえ。『家族を奪ったなんて許さない』とでも言うはずだ」

物を知ったような言い方に、思わず憤慨した。

「私、そんなこと言いません!」

すると、弓鶴様がフンと笑う。


< 164 / 168 >

この作品をシェア

pagetop