あなたに映る花
「俺が散々苦労と知恵積み重ねて作ってきた『与力』っつう立場と、体張って稼いだ金、徹夜で考えた名前、必死で手柄立ててようやく認めてくれた仲間の間宮と夕霧、あと――全力で口説き落としたお前」
「―――っ」
呼吸が止まる。
微動だにしない私を見つめたまま、弓鶴様が続けた。
「他に欲しいものなんてない。もう十分すぎるほど、両手に沢山の物を掴んでる。…もう持ち切れねえよ」
彼の大きな手が――身分の高い甘やかされて育った男性の手とは違う、沢山色んな物を掴んで離して来た手が、私の手を包む。
「お前と俺の気持ちはおんなじだろ」
「……え…」
弓鶴様の指が私の頬をツ……と撫でる。
「景の見せてくれた涙がその証だ」
「どういう…ことですか…?」
「もしお前が俺を嫌っていたら、お前のものを俺が奪ったことに対して怒りを覚えないはずがねえ。『家族を奪ったなんて許さない』とでも言うはずだ」
物を知ったような言い方に、思わず憤慨した。
「私、そんなこと言いません!」
すると、弓鶴様がフンと笑う。