あなたに映る花
――時は江戸。
桜の下で出会う大名の姫と。
二人は、互いの位も知らずに恋に落ちる。
二人を隔てる全てを振り切った彼女達は、つかの間の幸せに包まれた。
けれど――。
姫の死んだ母が妖怪であることを知った周囲が、この前起きた天災は姫のせいであると、姫を殺そうとする。
青年は、全てを棄てて姫を連れて逃げた。
逃げる二人の前に現れたのは、姫の許婚であるという大妖怪の息子。
彼は青年に、姫を渡せと迫る。
だが青年はその言葉を突っぱね、妖怪と刃を交える。
戦いは夜まで続き、引き分けのように思えたその時――
姫に追っ手の若者の凶刃が迫る。
人間の若者は、姫に強い思いを寄せていた。
殺せば手に入る、と考えていたのかも知れない。
青年は、妖怪を渾身の力で弾き飛ばすと、姫の目の前に立ち塞がった。
再び響く、刃のぶつかり合う音。
だが、青年は既に重傷を負い、また若者は狂っていた。
青年の刀は弾かれ、凶刃が青年の血で濡れる。
紅く染まった愛する人を見た姫は、悲しみと怒りで妖力が目覚める。
彼女の力は、若者をいとも簡単に消し去った。
力無く震える青年を、姫はその腕にかき抱く。
青年は、愛する少女の唇にそっと自分のそれを重ねると、優しい眼差しで少女を見つめながら逝った。
狂い咲きの桜が、二人の周りを舞う。