あなたに映る花


「西本!聞いてねえぞそんなの!」

……え?
どっかで聞いたことある声…

一瞬思考を巡らせたけど。

景くんの顔を見て、それは何処かに飛んでいってしまった。

「……景くん?」

ふるふると肩を震わせ、顔からは血の気が引き、今にも倒れてしまいそう。

だけど、それに気づかない良太が、更にマナ先輩に質問した。

「何処の誰っすかー?」

「うちのクラスに転入してきた、斎藤弓鶴(さいとうゆずる)くんよ!」

その名を聞いた途端…

景くんは、ギュッと自分の身体を抱きしめた。

…おかしい。
明らかに、景くんの様子がおかしい。

「景く―」

あたしは声をかけようとしたけど、マナ先輩の声に掻き消されてしまった。

「何してんのよ二年生ズ!あと、景くん!」

景くんの肩がビクッと大きく震えた。

「…景…?」

斎藤さんがその名を呟いた瞬間――

景くんが、あたしの横をハイスピードですり抜けた。

あたしは慌てて外に出る。


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