あなたに映る花

「…本当に、あの斎藤って奴、記憶がないのかな」

「どういう意味?」

「だってさ…。ほら、記憶ないフリしてるかもしんないじゃん」

…何よそれ。

拓真がため息をついた。

「そんなことして何のメリットがあるんだよ」

すると良太が苛立ったように唸る。

「だ…だったらさ!あの本は誰が書いたんだよ!景でも田沢でもないってんなら、あいつしかいないじゃん!」

「そんなのはわからない。本では、その場にいた正確な人数は書いてなかった。もしかしたら君仁…田沢の仲間がいたかも知れないし、景を殺した錫斗が他の人間を連れていた……かも……」

拓真の言葉が途切れる。

あたしも気づいた。

今の名前…。

良太が恐る恐る考えを形にしていく。

「…本の作者は?」

拓真がゆっくり答える。

「…逢留蘇途人」

「…いまんとこ最初から最後まで出てきてる登場人物の名前は?」

「…景姫。君仁。青年。………錫斗」


……錫斗。蘇途人。

おんなじ名前。

…なんで気づかなかったのかな。


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