あなたに映る花
――え?
背後で、声が聞こえる。
とっさに振り向くと、そこには――。
「ええええ!?」
――桜の精がいた。
驚いた私は、思わず後ずさる。
と。
「…――あっ!」
小袿の裾を踏んでしまった。
私の右手が、桜の精の袖をがっちり掴む。
「お!?」
――どさっ
「…桜の精ってのは、もう少しおしとやかなもんだと思ってたんだが…」
その夜色の瞳が、珍しいものを見たように見開かれる。
「大胆なんだな」
妙に感心じみた声で告げられた言葉で、ようやく私は状況を理解した。
すぐ目の前に、その整った顔がある。
間近で見るそれの妖艶さと状況に対する恥ずかしさで、顔が火照ってきた。
それを見た彼は苦笑を漏らす。
「そんなに真っ赤になんなくたっていいだろ。素直な奴だな」
そう言いながら、私の手首を掴んで引き上げる。