あなたに映る花

「何言ってんだよ。お前ならともかく、俺はただの人間だ」

呆れたような桜の精――ではなく、その美しい人の言葉に、今度は私が驚く番だった。

「なんでですか!?」

「いや、なんでって言われても…俺みたいな野郎より、お前みたいな女の方が納得いくだろ」

低く響く声に、初めてこの人が男性であると理解する。

だけど……。

「男の人にしては、綺麗過ぎます……」

なんだかその事実が悔しくて、私は小さく呟いた。

すると彼は、今までの困ったような微笑ではなく、私の知らない不敵な笑みを魅せた。

「今までこの顔のせいで無駄に苦労したが…お前にそう言われるなら今だけ親に感謝するか。けど…」

彼は、上から見下ろすように私を見た。

「お前も別嬪だぜ?」

「べ、別嬪……?」

聞いたことのない言葉に、私は首を傾げる。

そんな様子を見て、彼は私の頬に大きな両手を添えた。

「随分な箱入り娘だな…こりゃ男も知らなさそうだ」

なんだか馬鹿にされたような気がして、むっとその顔を睨んだ。

ぴったり目が合う。

――瞳の中の夜空に、怒りは吸い込まれてしまった。

「別嬪、っていうのはな――」


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