あなたに映る花
――数日後。
私は兄・鷹直(たかなお)の部屋に忍び込んでいた。
そっと箪笥を開け、中から兄上の着物と袴を取り出す。
「…お許しください」
それを持って自室まで戻る。
そこでは仲の良い屋敷仕えの娘、凛がいた。
彼女は私が手に持っている兄上の着物を見ると、呆れたようにため息をついた。
「……ほんとに持って来ちゃったんですか…」
ことの始まりは半刻ほど前。
私は、二、三日溜まっていた思いをついに爆発させた。
「…どうしても、外に出たいんです!」
「駄目です」
必死の願いは幸にばっさり斬られた。
「どうしてですか…」
「大名の姫君が護衛もつけずに外に出るなど、危険窮まりないことです」
……そう言われると反論出来ない。
私は湿った雰囲気で自室に戻った。
ふすまを開けた途端流れ込んでくるよどんだ空気に、凛が目を見開いて声を上げる。
「どうしました!?」
私は、斎藤様のことは一切伏せて、とにかく外に出たいという思いを伝えた。