嘘と紅茶とバウムクーヘン 【短編】
「ゴチソウサマ」
まるでわたしに見せ付けるように、ぺろりと自身の唇を舐めた。
…濡れて光る唇が、ひどく耽美的だ。
『(はっ!!わっわたしは何を…!)』
かあああああっ。
先程は茫然としていて感じなかった羞恥心が、一気にわたしを攻め立てた。
顔に赤い絵の具をぶちまけたのと等しいくらい、わたしの顔は朱に染まっていることだろう。
『ばっばばばばば莫迦じゃないのか!!か、勝手にわたしの唇を奪うな!!』
「隙だらけの藍依が悪い。それに、彼女にキスして何が悪いんだ?」
………か、彼女っ!?
いつそんなことになったんだ!
そ、それにどう考えても彰哉が悪いに決まってるだろうが!!
こいつはまた意味不明なことを自信過剰にぬけぬけと…!
唖然とするわたしを余所に、彰哉はすたすたと歩き出した。
わたしに2度もキッ……接吻をしておきながらこいつはぁ…!!
何でわたしがここまで取り乱していると言うのに、こんなにもマイペースでいられるんだ!!
『ま…待て!ふざっ、ふざけるな!だ、だだだ誰が彼女だ!』
「藍依」