嘘と紅茶とバウムクーヘン 【短編】
『う、煩い!つ、付き合ってやらないぞ!』
ぷいっと顔を背けると、また笑い声が降ってきた。
そういえば……嫌味っぽいところは抜けないが、こいつがこんなに笑っているのも珍しい。
「はいはい。喜んでお付き合いさせていただきます」
恭しく頭を下げると、彰哉はふわりと笑った。
山本優梨の話が嘘だったとは言え、今度は付き合うということがちゃんと嬉しそうだった。
…それを見て、何故かわたしも嬉しくなった。
『………か、帰るぞ!』
「手、繋ぐだろ?」
そうっと自然に差し伸べられたそれをじっと見て、なんだか自分からその手を取るのは癪だと感じた。
一応言っておくが、断じて……断じて、恥ずかしかったわけじゃないぞ。
『つ…繋いでやるっ!』
ずいっと彰哉がしたのと同じように、わたしから手を差し伸べた。
面喰らったような顔をした後、すぐに彰哉はその手を取った。
随分と久し振りに握った手は、昔とは比べ物にならない程わたしに男を感じさせた。
……自然と顔が綻んでしまったことは、幼馴染みには絶対に内緒だ。
あ、違う。
幼馴染みじゃなくて、彼氏だった。
【了】