嘘と紅茶とバウムクーヘン 【短編】
「(俺が藍依を好きだって、皆知ってるだろ)」
…ま、鈍感な藍依は絶対に気付いてないけど。
1人でわたわたと喚く藍依を横目に見ながら、相変わらず面白いなと心中で笑った。
『……む、なにを笑っているんだ』
口を尖らせた藍依がぎろりと俺を睨み付けた。
「笑ってない」
『ふん!仕方あるまい、このわたしが…か、彼女なんだからな!思わず笑いが零れるのも許してやるぞ!』
恥ずかしくて彼女、が一息で言えないところ。
頑張って自分が優位に立とうとして、完全に空回りしているところ。
……全部。
「可愛いな、藍依」
無意識に、頬が緩んだ。
藍依はぽかんと間抜け面で口を開けている。
…あ、前方にいるのは倉眞さんか。
藍依より先に報告して、藍依をあたふたさせてみよう。
きゃんきゃん吠える藍依の声を背中に受けながら、俺は倉眞さんの名前を呼んだ。
案の定、倉眞さんは―――
「やっと両思いになった!?もう、何年掛かってるの!」
と、笑いながら文句を言っていた。
【了】