嘘と紅茶とバウムクーヘン 【短編】
「寂しいだろ、藍依(あいえ)」
わたしの名前を呼び捨てにするのを許している男は、彰哉だけだ。
他の奴等はそもそもわたしなんかと関わりたくないだろう。
わたしだって、無論同じ気持ちだが。
しかしわたしともあろう者が、随分と嘗められたものだ。
寂しい、だと?
笑わせるなよ。
『…莫迦じゃないのか。どうしてわたしがそんなことを思わなきゃならない』
何を言い出すかと思えば、実に莫迦莫迦しい。
わたしの心境はまさしく彰哉の言う通りすぎて、莫迦莫迦しい。
お前は解らないだろうが、この憤りにもよく似た気持ちは寂しいどころじゃない。
ほんの十六年生きてきただけで、既に最高峰の絶望を味わっているんだ。
これはきっと、とんでもないことなんだぞ。
彼女ができたと、不粋にもわたしにのこのこと報告してきたお前には到底解るまい。
「……あっそ」