嘘と紅茶とバウムクーヘン 【短編】
『お、おま、なに、言っ…!』
開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ。
閉まりきらない口を間抜けにもぱくぱくとさせながら、わたしは彰哉を凝視した。
「ふぅん、藍依が動揺するなんて珍しいな」
眼鏡をクイッと指先で押し、彰哉は僅かに口角を吊り上げた。
…久し振りに、こいつが笑ったところを見た。
って、今はそんなことどうでも良い!!
『う、ううう煩いっ!お、お前は一体どういう了見でわたしのくっ…くち、唇を奪っ』
「好きだから」
間髪入れずに返ってきた言葉に、今度はわたしが瞠目する番だった。