Lasting
第1話 神園心
蔵原(クラハラ)学園高等部、裏庭―――
柔らかな栗色の髪が、ふわりと風に揺らぐ。
季節は夏に傾き始め、何にも覆われない太陽が、暑いくらいの光を照らし続けている。
栗色の髪の少年は寝転んだ身体を起こし、仏頂面で白いセーターを脱ぎ捨て、薄青のカラーYシャツ一枚になった。
始業を告げるチャイムがなっても、平然と仮眠を続けていた。しかし、思いの外上昇した気温に妨害されてしまう。
少年は唯一の木陰である、中等部のグラウンドとの境界になるフェンスに寄り掛かった。ゆっくりと空気を吸い込んでいると、背後から高い声が多数近づいてくる。
「早くー!!時間なくなるー!!」
切羽詰まった調子で、女子生徒たちが足早に体育倉庫へ入って行く。
やがて、生徒たちは散り散りになって、時折言葉を交わしながら、ボールを投げ合う音が聞こえてきた。
すると突然、『カシャン』とフェンス越しに何かが後頭部を殴る。
衝撃に振り向くと、そこには体育着姿の少女が、左手にグローブをはめて笑っていた。
少年に当たっただろうボールを、少女は白い手で拾い上げる。
「またサボってるの??余裕だね」
少年とよく似た質の長い髪が、少女の歩みと同様に動いた。
「…眠いから、寝てた」
少年は、視線をはずして答える。その目の端には、むくれ顔が映った。
「もう…」
微少に眉を垂れる少女に、少年の口元はわずかながら笑みをつくる。
「わかった。今から教室に戻る。そんな顔するな」
優しい口調で立ち上がり、制服を軽く払う。少女はたちまち明るい表現に変わった。
「ほら、友達待ってんだろ。もう行け」
「あ、ホントだ!!…じゃあ、あとでメールするね。お兄ちゃん」
少年に促され、友人が手を振っているのに気がついた少女が、駆けていく。
妹の後ろ姿を目で追った少年――神園心(カミゾノシン)は、緑の葉をつけた桜並木の下を歩き出した。
柔らかな栗色の髪が、ふわりと風に揺らぐ。
季節は夏に傾き始め、何にも覆われない太陽が、暑いくらいの光を照らし続けている。
栗色の髪の少年は寝転んだ身体を起こし、仏頂面で白いセーターを脱ぎ捨て、薄青のカラーYシャツ一枚になった。
始業を告げるチャイムがなっても、平然と仮眠を続けていた。しかし、思いの外上昇した気温に妨害されてしまう。
少年は唯一の木陰である、中等部のグラウンドとの境界になるフェンスに寄り掛かった。ゆっくりと空気を吸い込んでいると、背後から高い声が多数近づいてくる。
「早くー!!時間なくなるー!!」
切羽詰まった調子で、女子生徒たちが足早に体育倉庫へ入って行く。
やがて、生徒たちは散り散りになって、時折言葉を交わしながら、ボールを投げ合う音が聞こえてきた。
すると突然、『カシャン』とフェンス越しに何かが後頭部を殴る。
衝撃に振り向くと、そこには体育着姿の少女が、左手にグローブをはめて笑っていた。
少年に当たっただろうボールを、少女は白い手で拾い上げる。
「またサボってるの??余裕だね」
少年とよく似た質の長い髪が、少女の歩みと同様に動いた。
「…眠いから、寝てた」
少年は、視線をはずして答える。その目の端には、むくれ顔が映った。
「もう…」
微少に眉を垂れる少女に、少年の口元はわずかながら笑みをつくる。
「わかった。今から教室に戻る。そんな顔するな」
優しい口調で立ち上がり、制服を軽く払う。少女はたちまち明るい表現に変わった。
「ほら、友達待ってんだろ。もう行け」
「あ、ホントだ!!…じゃあ、あとでメールするね。お兄ちゃん」
少年に促され、友人が手を振っているのに気がついた少女が、駆けていく。
妹の後ろ姿を目で追った少年――神園心(カミゾノシン)は、緑の葉をつけた桜並木の下を歩き出した。