初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
 その後、何気ない会話を続けながら、いつもお世話になっている銭湯の前までやってくる。

「今日は銭湯に寄って行くから、ここでいいよ」

 入口で立ち止まると、あたしはタクミと向かい合う。

「ん――そっか」

 いつもの様子に戻ったタクミは、ほんの少しじっとあたしの顔を見たあと、

「……無理、すんなよ?」

 ぼそっとそう言って、またそっぽを向いた。

「大丈夫」

 ぽん、と胸を叩いて笑うと、あたしはカバンを持ち直し、

「じゃあね、送ってくれてありがとう」

「ん。――じゃあな」

 小さく手を振ってタクミと別れ、銭湯へと入っていった。

 ――このとき、まだ何か言おうとしていたタクミの様子を、あたしは察することが出来なかったけれど。

 もし、あたしに言いたかったことをこのときに聞いていたとして、自分の気持ちは変わっていたのかな? なんて。

 ふ、っと――たまに思い起こすことがあるけれど。

 別にそれは今を不満に思っているわけじゃなくて、なんていうのかな……

 もし別の道を歩いていたら、あたしの運命はどう変わっていたのかな? って。

 シンさんとの関係も――ひょっとしたら……なんて、ね。

 別の幸せがあったのかな? もしくは……?

 当時のあたしはそんなことを考えることもないまま。

 ただ、明日を思って胸を不安と期待でどきどきさせながら、銭湯で綺麗に全身を清め、次の日の準備を頭の中で考えていた。

 この土曜日が、あたしの人生の中での大きなターニングポイントの1つだということを知らないまま――……
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