初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
 シンさんと会う――その前に。

 あたしには行かなきゃいけない場所がある。

 そのために、今日のバイトはお休みにしてもらっているんだから。

 両親が亡くなってから定期的に通うようになった、病院。

 失われたあたしの体の機能を取り戻すため。

 このことを詳しく知っているのは、あたしと病院の先生のほかに、マコとタクミだけ。

 今すぐどうということになる深刻な症状でもないから、お金のことも考えて通院を断念しようとしたけれど、それを聞いた2人が怒って、自分たちがカンパしてでも通わせるって言ってくれたから、今もこうして通院している。

 さすがにカンパは受け取っていないけれど、昨日のタクミやこの間のマコみたいに、ことあるごとにチェックしてくれて、気を使ってくれて。

 そうやってあたしのことを気遣ってくれるのはとても嬉しいし、その気持ちを痛いほど感じたから、あたしは生活費をやりくりしながらも、病院代を捻出していた。

 昨日の残りで簡単な朝食を作って食べて片付けまで済ませてから、洋服を取り出すためにタンスへ向かう。

 今年の新作は買えなかったけれど、精一杯のコーディネイトは考えたつもり。

 普段あんまりお洒落してお出かけすることなんてないけれど、一応、困らない程度に服はあるつもりだし。

「えっと――」

 昨日のうちに選んでおいた洋服を取り出すため、あたしはタンスの引き出しを開けた。
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