初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
 さすがに本当には眠れないけれど、そこでなんとなく打ち解けた空気になったあたしたち。

 運転しながら、シンさんはこの車のことを教えてくれた。

「この車は『Z(ゼータ)』って名前なんだ。国産車なんだけど、あまりメジャーじゃないモデルだから、台数が少なくてね――でも、このフォルムが好きで、ぼくはこの車に決めたんだ」

「そうなんですか」

「うん。――でもまぁ、あんまり運転する機会ってないから、車にとってみればいい迷惑なのかもしれないけれどね」

 前を向いて苦笑するシンさんのその横顔を、あたしはそっと盗み見るように眺めている。

 なんだか、車のことを話しているシンさんがすごく楽しそうに見えた。

 それを見ているあたしも、なんだか頬が緩んでいる。

「でも――この車にさくらちゃんを乗せてあげられたことはよかった、と思ってるよ」

 再び信号で車は停まり、フロントからゆっくりと視線をあたしに向けてくれたシンさんは、目が合うとにこりと微笑んでくれた。

「……」

 ゆるり、と合わせられた視線に、思わずどきん――と胸が鳴る。

「実はね――この車、ぼく以外の人が乗ったのって、さくらちゃんが初めてなんだよ?」

 顔が向かい合うと、シンさんは大きく笑い、すごく嬉しそうにそう言ってくれた。
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