初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
 また再び沈黙が車内に流れる。

「……」

 気まずいわけじゃない――とも言い難いのかも。

 さっき、シンさんの手があたしの頬に触れようとしてくれた。

 それをまるで他人のような気持ちで眺めていたあたし。

 もし――触れられていたら。

 嫌だったのかな……?

 ……ううん。

 きっと――嫌とか思わなかった。

 すっごく恥ずかしい気持ちになるとは思うけれど、心が甘くなったような気がする……

 触れて欲しかった――のか……も?

 男の人特有の、少し骨ばって大きい硬めの手。

 いつもはお店でお釣りやスタンプカードを受け渡しするときに、一瞬だけ触れるあの手。

 それを思い出したら……って、やだっ! あたしったら……!

 なんだか思考が変な方向に行きそうになって、こっそり深呼吸。

「さくらちゃん、どうかしたの? 気分悪くなった?」

 けれど、シンさんに心配そうに声をかけられ、あたしは慌てて「なんでもないです」と言い繕う羽目になった。
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