初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
 シンさんがどんなことを思いついたのかは分からない。

 けれどあたしは、自然とその声につられるようにしてシンさんの顔を見上げていた。

「さくらちゃんの名前、教えて欲しいな」

「え……?」

「ずっと知りたかったんだ。――きみの本当の名前」

 あたしの――本当の?

「お店に通い始めた頃に、ぼくが何気なく本名? って聞いたら、さくらちゃんは少し困ったような顔をして『ここではさくらが自分の名前』って言ってくれたことがあったよね?」

 そういえば、そんなことがあったっけ――

 それがきっかけで、シンさんがお店の勝手口で待ってくれていて、それをタクミに見られて……

「じゃあ、本名じゃないんだなって思ってね。だから、お店での名前の『さくら』以外の――きみの本名が知りたい、って思って仕方なかったんだ」

 目の前の信号が赤になって車がそっと停まると、シンさんはまたあたしの顔を優しい目で見つめてくれる。

 どきん、とするような魅力が感じられた。

「……」

 いつもの温かいだけじゃない――吸い込まれるような魅力。

 また、あたしの胸はどきどきを早鐘を打ちだした。
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