初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
 ――やっぱり、他のお客さんとは違う。

 甘くて少し独特だけど、柔らかくて嫌じゃないコロンの香りがあたしの鼻腔にふわりと届く。

 こんな上品そうなコロン――そもそも、コロンをつけてくるようなお客さん自体が初めて。

 前回のときは気がつかなかったけど、席に着くときも、なんだか優雅な身のこなしに見える。

 まるで流れる一筆書きの書のようなイメージ。

 このときのあたしには、2人の身のこなしの理由は分からなかったから、ぼんやりとしか感じなかったんだけど、それでもぼんやりながら「違う」って分かった。

 この前と同じで、ネクタイは無いけどジャケットを羽織り、どことなく他のお客さんとは違って上品な雰囲気が見え隠れする気がする。

 あまり男性の服は詳しくないけど、そんなあたしでさえ、ひとつのしわのない柔らかそうな布地のジャケットは、安物じゃないとうっすらだけど感じられた。

 ジャケットの胸ポケットに入ってるハンカチがさり気ないのに嫌味な感じじゃないのも、2人のさり気ない上品な雰囲気のおかげなのかな。

 履いている革靴もすごくピカピカで、傷はおろか、曇り1つないくらい綺麗な感じ。

 シンプルに見える靴だけど、安物っぽいテカリがなく、本物の皮の輝きっていうのかな……店内の明るい照明の光が、少し鈍いような、独特の柔らかな光になって靴に反射している。

 2人とも、外に出るような仕事じゃないのかな――?

 こんな平日の昼間って、普通ならお仕事中……よね?

 ……いやいや、だめよ……余計な詮索は禁止って決められているんだから。
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