月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 そしてすっかり薄暗い。だからきっと冬海はあたしの顔なんか見えていないって思ってた。気が緩んだせいだ。涙が出たのなんか、あたしは気付かなかった。先に気付いたのは冬海。

 目からポロポロ落ちたのは、涙と一緒に心にあった壁なんだ。きっと。
 夕暮れの中そっと、今度は通行人に気付かれる事無く、冬海はあたしの指先だけをちょっと握った。冷たい手だった。

 好きなのかそうでないのか、なんて幼いんだろう。2人とも。そんな会話をしただけ。ただそれだけ。なんて事は無いんだけど。

 昨日の冬海といまの冬海は同じ人だけど、あたしの中でぐるりと色を変え、絶対的な存在になったって事。それだけは間違いなかった。



 あたし達は、コンビニの駐車場で何本電車をやり過ごしただろう。大事な時間を両手で包むようにしていた。



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