月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「晃、なんかあった?」

「え?」

 キッチンを出ようとしたあたしの背中へお母さんの声。「べつに」そう自然に答える声は自然だったろうか。

「なんかソワソワしてんね」

「そうー?」

 さすが母親。そのカンをあたしにもください。

「お風呂早く入りなさいよー」

「はぁい」

 再び階段を昇る足は軽やか。態度に出しすぎだなあたし。

 部屋に戻り、鞄からケータイを出す。点滅していた。急いで開くと、冬海からのメールだった。

「明日、駅で待ち合わせしよ。ガッコー」

 この1行だけを20回くらい読んだ。早く返信しろよ。来たのはカレーをかき込んでる最中だったらしい。10分位前。

「いつもあたしが乗る電車は……」

 駅に到着の時間を入れ、送信。

 冬海は今、何をしているんだろう。家に帰ってご飯を食べたかな。テレビでも見て寝転がっているかもしれない。

 行ったことも無いのに勝手に冬海の部屋なんかを想像して、顔が赤くなった。

 高校生のいつも通りの朝は、大体こういう感じでいつも通りじゃなくなっていく。




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