月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「もうやめたほうが、良くない?」

 遊んでるって、あたしがその現場を見たワケじゃないし。

「別れた方が」

 嫌いになったけじゃないのに、あたしから別れようなんて。

「他に女が」

 うるさいうるさい、うるさい。やめてよ。

 外野の声をうまく聞こえないようにできるくらい器用じゃなかった。まして初めて出来た恋人。人の噂に流されるなっていうほうがムリだったかもしれない。

 ベッドと友哉の間に挟まってしまえば、嫌な考えなんか、吹き飛ぶけど。


 決定的だったのはやっぱりその「現場」を見たことだった。

「やめたほうがいいよ」「別れた方がいいよ」「他に遊んでるっていうし」ってしきりに言っていた友達の1人と、友哉の部屋で鉢合わせたから。

 あたしが先に部屋にいて、あとから彼女が入ってきた。

「なにこれ」

 思わず口から出てしまった。本当によ、なにこれだよ。なんで居るの?

「別れてよ、友哉。アキラと」

 そう、彼女は言った。あたしでいいじゃん、とか。アキラなんかつまんなくない? とか。なんかそういう事を言っていた。あたしはびっくりしたのと残念すぎるのとで、黙っていた。

「うるせーよ、何しに来たんだ」

「友哉……」

 友哉に言われて、彼女は目に涙をいっぱい溜める。あたしは、どうしたら良いんだろう? ていうか、何やってるんだろう? そう思ったらなんだか体中の毛穴が埋まったような気持ちになった。

「あ、あたし帰る」

 いたたまれなくなるとは、この事で。あたしは鞄を抱え、部屋のドアノブを握ったままブルブル震えて泣いている彼女を「すいません」って避けて、全速で家まで帰った。

 あの子が友哉とそういう関係になったのが、友哉とあたしがつき合う前なのか後なのか分からないけど、ずっとあたし達のことを見ていたんだ。そして、あたしの友達でいて、あたし達が別れるようにとずっと祈っていたに違いない。あたしの側で「別れたほうがいいよ」と言い、きっと友哉には「晃と別れて」って言っていたんだろう。彼女を恨むとかムカつくとかいう気持ちよりも、友哉の神経を疑った。いろんな噂はきっと本当で、あたしは耳に入っていたのに疑わず、友哉はあたしを言いくるめてきた。

 ごまかして、嘘で、あたしへの思いだとか言葉とか、そういうのが偽りだった。どこに本当があるのかが分からないくらいに。

 あたしが「全てだ」って思っていたものってなんだったのだろう? 友哉は他人を抱いた腕であたしを抱いた。何度も何度も。もうあたしに友哉を知らない空白が無くなるほどに。

 ばかみたい、あたし。

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