月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 それから何も考えられず、思考が停止した状態で家に帰った。友哉が追いかけてきた、みたいな展開にはならなくて、きっとあの子に捕まってるに違いない。ずっと捕まってればいいよ。

 家の前で、玄関を開けられず立っていると、なぜかドアを開けて出てきたのがお母さんで。

「なにやってんの? 足音聞こえたから帰ってきたと思ったのに、入ってこないんだもの」

 もう暗い時間だった。でも、お母さんから出てくる言葉と一緒に空気まで温かい色になってくるようで、あたしは泣きそうになった。「入りなさい」そう言ってお母さんはあたしの肩を触った。あたしの肩は友哉も触ったんだ。そして友哉の手は知らない女の子も触って、そしてあたしに触って、あの子のことも触って。

玄 関を入ろうと一歩を出した瞬間、あたしはその場に吐いた。吐き気が止まらなくて。制服も鞄も汚れてしまった。お母さんはびっくりして先に帰っていたお父さんを呼び、そして車で近くの病院に連れて行かれた。

検 査しても特に悪いところなどなく、風邪でしょうという医者の言葉に少し安心して、なんだか分からない薬を貰って帰ってきた。

 帰りの車内では3人、何も喋らなくて、でもその沈黙が心地よかった。お父さんもお母さんも、あたしが何か悩んでいて風邪気味だったから吐いた、くらいにしか多分思っていない。
 窓の外、暗い街並みを見送りながら、それでいいと思っていた。あたしは涙を我慢する。

 もう友哉を嫌いになったのかと聞かれたら嘘になる。でも、ああいう事があった手前、元通りに一緒にいることは無理だった。

 無理でしょ。きっとあたしが戻れば、今までと同じように色んな女子と触れ合って、その一つとしてあたしの所にも来る。それは耐えられなかった。だから、あたしは別れる決意をする。


< 139 / 394 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop