月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「ごめんね、マック行ってて。後でメール入れてみるけど、その時にまだマック居たら合流してもいい?」

 いつもの駅前のマックだ。

「おっけー、じゃメールして」

 人差し指を立てて、美由樹が可愛く言った。

 2人の後ろ姿を見送って、あたしは掃除の始まった教室を出た。

 部活へ行く生徒、帰る生徒、様々な中をくぐり抜け、図書室へと向かう。

 本が好きだった。あと、図書室自体も好き。落ち着くし、本がずらっと並んでるのを見てるのが好き。

 図書委員も良いなと思ったんだけど。でも、本の管理と本好きなのとは別なので、やめておいた。整理整頓が苦手とも言う。

 2月のあの日。冬海と出逢った日。

 図書室からの帰りだったけど、まだ鮮明に覚えている。

 図書室へ向かう途中、窓から見えるあの椿の木。いま満開になって咲いている。

 あの時に一輪だけ咲いていたのはなぜなんだろう。

 濃いピンクの、幾重にも重なった花びらをしている椿。図鑑で調べたら「乙女椿」とあった。遅咲きで4月頃に咲くと。

 あの日、暖かかったから勘違いして咲いちゃったのかな。


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