月光レプリカ -不完全な、ふたつの-





 ***

 ガタ。物音で目が覚める。うっかり眠ってしまったようだ。

 パタパタパタ、足音が聞こえる。誰か居る? お母さんが忘れ物でもして戻ってきたんだろうか。そう思ったけど、時計を見ると数時間は眠ってしまっていたことに気付く。だってもう夕方に近い陽の感じだ。

 うそでしょ、半日寝て過ごしちゃった。ソファの上にごろんと寝ていたせいで変なところが痛い。ぐいっと背伸びをした。

 ところで今の足音は誰だろう。あたしは立ち上がるとリビングから玄関の方を覗いた。玄関に、赤いスポーツバッグが頬り投げてある。あれは光のだ。

「光? 帰ってきたの?」

 ちょっと大きい声で呼んでみた。どうやら帰ってきてすぐバスルームに向かったようで、シャワーの音が聞こえる。

 部活で汗かいて、気持ち悪いんだろう。頬り投げたスポーツバッグでそれが分かる。あたしは、玄関にある光の荷物のところへ行き、リビングへ運んであげた。

 ジャージやタオル、サポーターなんか入っているだろうから、けっこうな重さだ。力持ちの妹を持ったので、これから重いものを持つ時は手伝ってもらおう。

 バッグを床に置くと、やたらと汚れが目立つのに気付いた。やぶれとか、引っかけたような部分とか。

 中学入学と同時に買ったはずだけど、こんなに汚れる? 汚れというか痛んでるというか。部活のバッグは学校指定じゃなくて良かったから「赤がいい」って買ってもらってた。

 しばらく立ったままでいたけど、そういえばお腹が空いているんじゃないかと思って冷蔵庫に行った。光はもっと遅くに帰ってくると思っていたから、少し帰りが早いなと感じる。


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