月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
冬海。あたしはもう脊髄反射のごとく冬海へ電話をかけていた。2コール、3コール、4コール……出ない。出かけてるか、寝てるか。切ろうとしたその時、呼出コールが切れる。

「……ハイもしもーし」

 眠そうな声が聞こえてきた。出た!

「冬海!」

「うわビックリ。なに?」

 焦ってるから、自分でも分かってるから、頭の中の事を言葉になかなかできない。

「光が……妹が」

 電話の向こうでガサガサという音がする。「ちょっと」という冬海の声。聞こえてるけどなんだか自分を素通りしてるようだ。

「落ち着いて、光ちゃんどうしたの」

「光……カミソリで、お風呂場で倒れてて、いま親いなくて」

「わかった、すぐ行くから道教えて!」

 もっと家が近ければ良かったのに。あたしは冬海に、近くまで来たら電話をしてと言って、バスルームに戻った。カミソリが外れた光の腕の傷に、タオルを押し当てる。どうかもう止まって。血が止まりますように。バレーができなくなったらどうしよう。

 冬海から再び電話がくるまで、この時だけ時間が遅く流れているんじゃないかと思いながら、待った。低く呼吸をする光の冷たい手を握りながら、待つしかできなかった。

 光の手を握るあたしの手はブルブル震え、血も付いている。

 何を、何をしたの光。なんでこんな事をしたんだろう。

 救急車を呼ばないといけないのかな、どうやって呼んだら良いんだろう? 電話で? なんて伝えればいいの。

 冬海、早く来て。

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