月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 ケータイが鳴っているのに気付かないほど思いつめていた。着信は冬海。

「はい!」

「センパイ、住所を言って!」

「え」

「早く!」

 近くまで来たのかな。電車で来るには早くない?

「ええと」

 ちゃんと聞こえるようにとハッキリ発音して、伝えた。「分かった、待ってて」そう冬海が言うと、電話が切れた。

 あたしは光から手を離し、洗面所へ行った。タオルを取って光の所へ戻る。腕に当てたタオルを交換した。怖くてあまりじっくり見たくない。

 あまり血が出ていないような気がする。止まった……のかな。洗濯機にかかっていたバスタオルを広げてくるんでやる。

 こういう時、どうしたら良いのか学校で習ったことあったか、思い出せない。応急処置? 何ができるの。

 光は相変わらず青い顔で、口に耳を近づけないと分からないくらいの息だった。

 医者でもないから判断できない。分からない。もうなんで何もできないの。もどかしくて仕方がない。イライラしていると、また着信。冬海だった。


「センパイ、玄関出て!」

「あ、うん!」

 近くまで来たんだろう。白壁の家だって伝えたけど、白壁なんでごまんとある。あたしは急いで玄関を飛び出した。道路に出ると、あたりは薄暗くなっていた。1台のタクシーが走り去り、そのあとに冬海の姿。

「電車ウザイからタクシーで来た」

 だから早かったんだ。

「ありがと。あとお金払うから」

「いいよそんなの。早く行こう!」

 冬海はあたしに家に行くよう促すと、財布をデニムのポケットに突っ込んで走り出した。

「センパイ、裸足! ケガすんだろ」

 言われるまで気が付かなかったけど、足が痛くても家まで走った。
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