月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 2人で家に入ると、冬海は小さい声で「おじゃまします」って言う。そして光がいる脱衣所へ。冬海を呼んで、あとどうしたら良いんだろう。
 光を見ると冬海は、頬を少し強めに叩き「おい!」と声をかけたけど光は無反応。

「お父さんお母さんに連絡した?」

「出ないの。たぶん切ってる。今日コンサートに出かけてて」

「分かった。救急車は?」

「まだ……」

「そっちが先だろ!」

 強く言われてビクリとしたけど、救急車を呼ばなくちゃ、やっぱり。「深く切ったわけじゃなさそうだけど、一応病院へ」とタオルを取って傷を見ながら冬海はケータイを取り出した。

「あ、あたし呼ぶよ」

 自分のドンくささに呆れる。部屋着のポケットからケータイを取り出し、ダイヤルしようとした。

「……お、おね……」

 小さいその声は、不安と興奮が張りつめたあたし達2人の動きを止める。横たわる光はうっすら目を開けていた。

「光!!」

 目を開けている光が弱々しくまばたきをする。良かった、気が付いたんだ。視界がゆらついたから、涙が出てきたと分かる。でも泣いてる場合じゃない。

「きゅ、救急車呼ぶから動かないでて! 大丈夫だよ。お姉ちゃん居るから」

 とにかく、安心させて救急車を呼ばないといけない。あたしはまたケータイを握りなおす。震えてボタンがうまく押せない。

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