月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「やめ、て。呼ばないで……大丈夫だから」

 さっきよりもハッキリした口調で言う光。その言葉にあたし達は同時に光を見た。

「なに言ってんだ」

「なんで!」

 傷から血が出て、気を失っていたのに、大丈夫なわけない。

「だめだよ、言うこと聞きなさい!」

「やめて! 平気だから!」

 光は半分体を起こしながら言った。苦痛に表情が険しくなった。

「なんで……」

「ちょっと、切っちゃっただけだから……深くやってないから。大丈夫」

 自分の力で起き上がろうとする。シャワーは水だったし、冬じゃないとはいえ体が冷えているんじゃないか。また傷から出血するんじゃないか、あたしは心配だった。
 体を起こそうとする光を冬海が支える。

「ごめん、お姉ちゃん……」

 自分が下着姿なのが気になったのだろう。バスタオルを首まで上げた。あたしはケータイを握ったまま、光の近くにしゃがみこむ。

「バカ! 何やってんの?! 本当! こんなことして……」

 冬海は立ち上がり「服は?」と言った。洗濯機の横に脱ぎ捨ててあるジャージを指差すと、それを取ってくれたから、光に頭からかぶせた。下も穿かせる。裸のままではおけなかった。上着を着るときに、何のためらいも無かったから、腕の傷はさほど深くはないんだろう。でも手当はしないと。


「消毒とかしないと。とりあえずリビングに行こう」

 冬海が言ったので、「立てる?」とあたしは光を支えた。ゆっくり立ち上がる。更にゆっくりとリビングに向かった。
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