月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「……ぶ、部活で……」

 スポーツバッグの方を向いた光。「これ? 開けるのか?」と冬海が聞くと、少し間を置いて光が頷いた。

「あ、友達に来てもらったの。冬海くんていうんだけど」

 聞かれてもいない説明をする。あたしのそのセリフはふんわり浮いた感じだ。
 冬海は手に持っていた絆創膏を置き、光の赤いスポーツバッグのファスナーを勢いよく開ける。さっきも思ったけど、なんだか痛んでいるようなバッグ。汚れて擦り切れて。バッグの入口を広げ、中身が見えるようになった時、あたしは目を見開いた。見えたのは、ビリビリに切られたジャージだった。いま着ているのは替えのだろう。

「なに、これ」

「あたし……」

 消毒は終わっている。あとは絆創膏を貼るだけ。あたしは絆創膏に手を伸ばす。作業しながらも、ショックを受けていた。なんとなく、この切られたジャージと痛んだスポーツバッグが繋がった気がした。

「もしかして、バッグも?」

 あたしが聞くと光が頷く。

「ロッカー開けたら、バッグにリップクリームがベタベタに塗られていたり、ゴミ箱に捨てられてたり、してた……ことあって」

 いじめ。その3文字が頭に浮かぶ。光が、自分の妹がいじめにあっていた。

 部活、か。先輩か同級生なんだろうか。あたしは頭に血が上り、震えた。妹にこんなことするなんて。今からでもそいつらの所に行って殴ってやりたい。

「ひでーな」

 冬海が小さい声で言った。

「誰か分かってるの?」

「部活の、たぶん先輩達だと思う。あたし、1年でレギュラー取ったから……あと」

 言葉の続きをあたし達は待つ。

「あたし……」

 絆創膏を貼り終わり、腕を光に戻す。絆創膏は結局、大きいサイズのものを6枚貼った。
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