月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「あたし、男子バレー部の……先輩と……つき合う、ことになって……」

 短く切れ切れに出てきた光の言葉から、いろんなことが分かったり、そういうことかって理解できたりした。バッグが痛んでるのも、光の扱いが乱暴だったからじゃなかった。

「先輩けっこう人気のある人だから、なんていうか、あたしが普通に練習できなくなっちゃって」

 具体的には言わないけど、練習にも支障が出るほど、何かされてるんだなって思った。想像でしかないけど。

「こんなの大丈夫、って思ってたんだけど、さ」

 絆創膏の上を、そっと触る光の手。

「がんばれなかったよ」

 へへ、と光が笑う。

「光……」

 もう薄暗い時間だ。梅雨も半ばで、雨が降ったり止んだりの季節。日がだんだん長くなってるのを感じる。

 窓からはぼんやりした夕方の終わりの空気。あたしは立って行って、リビングの電気を点けた。薄暗いのも気にならずに光の手当をしていた。

「その先輩は、知ってるの? このこと」

 あたしは、なんとなく返事が分かるような質問をした。あたしが光ならそうするだろうなって。

「知らないよ。先輩に迷惑かけるもん」

 だろう、ね。

「あたし、別れた方がいいのかな」

「光……」

 擦り切れたスポーツバッグと、ビリビリになったジャージを見つめる光はそう言った。

「別れなくちゃいけないかな、先輩に迷惑かけるし、好きだけど……でも」

 はぁ、と息を漏らすと、目から大粒の涙を零す。

「す、好きなんだけど……でもなんか、悪いのかなぁ、ダメなのかな! 別れたほうがいいのかな……ねぇお姉ちゃん」

 顔を覆って、泣き出してしまった。中途半端に声なんてかけられない。自分に傷を付けるほどに思いつめていたのに、軽々しく慰めてなんてやれない。

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