月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 呼吸が浅い。息苦しく停車している車を見ていると、助手席から人影が立ち上がるのが見えた。

 心臓がガクンと飛び出しそうになる。

 車のドアを閉めている。ドン、という音がここまで少し聞こえてきた。顔が見える。冬海だ。冬海だけど、制服じゃなくてTシャツにデニム姿だった。車内で着替えた……? 乗る時は制服だったのに。

 すぐに冬海は目の前の建物に入って行った。

 細い路地、白いセダンは冬海を降ろすとすぐに走り去って行った。

 目の前を通ったので、あたしは壁に張り付いて見えないように気を付けた。たとえ見えていても、向こうはあたしの顔を知らないだろうけど……。
 
 車が行ってしまってから、あたしは冬海が入って行った建物へ近付いて行く。

 ビジネスホテルと看板が出ていた。よく見ないと分からない。雑居ビルみたいで、なんだか汚い感じで……。


 ビジネスホテル。……ホテル。

 なんでこんなところに? 人通りも無いし、何してるの? 学校がまだ終わってない時間に出てきて、車の中で着替えてまで来なくちゃいけないところなの? このホテルで何をしてる? 冬海、本当に……。

 上を見上げて、たくさん見える窓、このどれか1つに居るの? 


 また小雨が降っていた。

 出てくるまで、このまま待とうかどうしようか。

 出てきたところで、あたしはどうするつもりなんだろうか。もう下校の時間だ。いまから駅に行けば、生徒がたくさん居るだろう。そんなところにわざわざ行きたくない。

 それに、いま自分がどこらへんに居るのか、見当が付かなかった。どこをどう通って来たんだろう……車だったし、よく分からない。

 目の前にあるのはビジネスホテルと書いてあるけど、よく周りを見てみれば、風俗の看板、ラブホテルが建っていた。

 まだ夜の時間帯じゃないから、ネオンも無いし分からない。


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