月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 キャスケットを取って、三つ編みをほどく。

 とりあえず、タクシーで走ってきた道を戻ることにした。どこかまで行けば、ここがどこなのか分かるかもしれない。人が居れば、聞けばいい。

 歩きながら、ケータイを取り出す。着信もメールも無かった。充電は満タン。当たり前だ。家を出る直前まで充電してたんだから。


 冬海が入って行ったホテルを振り返る。誰も居なかった。

 次、冬海に会ったとき、あたしはどんな顔をしていれば良いんだろう。よく分からない。冬海が何をしているのかも、マミ先輩が言っていたことも、何が真実なのかも。

 地面のコンクリートは濡れて黒く、夕方へと向かおうとする空の光を受けている。ビルの壁も、だらりと濡れている。

 雨で体が濡れているのが分かった時に初めて、どこかに傘を忘れて来てしまったことに気付いた。

 ふと顔を上げると、5メートル先あたりのビルの入口から、リュックを手に持った少し太った男性が出てきた。

 あの人に、ここがどこらへんなのか聞こう。そして、早く帰ろう。

 あまり長く外出してれば、お母さんも心配するし。


 あたしは小走りにその男の人に近寄って行った。途中でその人はあたしに気付く。じっと見られた。


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