月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「あの」

 手に持ったキャスケットはしっとりと濡れていた。

「ここって……どのへんなんでしょう」

「どこって?」

「ちょっと……迷ってしまって。すみません……」

 なんだか張り付くような視線を投げかける人だ。

 イヤだな。人選を間違えたかも。女の人を見つければ良かったかも。

「キミ、いくつ? なにしてんのこんなところで」

 男の人は……30歳くらいだろうか、まばらなヒゲが不潔っぽい。なんかイヤだ。

「あ……やっぱりいいです。すみませ……」

 あたしはやり過ごして行こうとした。その時、肩を掴まれた。

「ねぇ、どこ行くの。ああ迷子だっけ? 俺が送ってってやるよ」

「え、ちょっと」

「高校生? かわいいねーいくら?」

 掴まれた肩が痛い。ヤダちょっと……。

「は、離して!」

「なんだよいいじゃんか、いくら?」

 両方の肩を掴まれた。痛い、怖い! いくらって何が……!

「や、やめてよ!」

 ボコッ……。ボコンボコン……。

「ってぇ! なんだぁ誰だぁこのやろう!」

 地面をペットボトルが転がっていく。500mlの、中身が半分ほど入ったままのやつ。

「クソやろうキモイんだよ! 消えろ!」

 後ろから、声が聞こえた。

 声の主が投げたペットボトルが、あたしを連れて行こうとした男の人に当たったらしい。おそらくは、そう。


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