月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「なんだと!」

「婦女暴行で掴まんぞ。俺の目撃情報を言えば。あ、未遂?」 

「……てめぇ」

 男の人は、あたしから手を離して、後頭部に手をやる。

 あたしは声の主を見た。少し茶色い髪で、背が高くて……制服姿。

 聞き覚えのある、声。


「未成年だしなぁ」

「……クソガキ」

 唾を吐き出し、男の人はリュックを背負い直して行ってしまった。

「なんだよ、向かってくるかと思ったのに」



 地面のペットボトルを拾い上げ、角を曲がって見えなくなる男の人にまた投げるフリして「コントロール良かったな」とか言ってる。この人……。



「と、友哉……?」


 まさか。


 声の主はあたしを振り返る。悲しく懐かしい想い出、また身長が伸びただろうか、友哉だった。

 まさか……こんなところで会うなんて。
 
「久しぶり」

 変わってないんだな、そのちょっと悪ガキみたいな笑い方。

 あたしろ見下ろして、笑う。

 あの卒業式の日以来、連絡も取ってないし、もちろん会ってもいない。懐かしさと悲しさと、少しの嬉しさとが一瞬にして体に入ってくる。

 友哉。あたしの、好きだった人。


「た、ありがと」

 あまりに突然で「助けてくれてありがとう」とうまく言えなかった。



「お前なにやってんだよこんなところで。ああなるの当たり前だろーが」

 彼氏を尾行してました、なんて言えない。しかも元彼に。

 持ってたキャスケットも地面に落ちてしまっていた。

 なんで、まさかこんなところで友哉に会うなんて。

 制服着てるけど、別な学校のだし、なんだか知ってる人なのに知らない人みたい。


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