月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「?」

 手を、あたしの耳のあたりにかかる髪に付けたまま、今度は冬海が動きを止める。

 こ、今度はなに。

「いいなぁ」

「え?」

「センパイはいいな……キレイで」

 な、なに……。冬海に触れられて、あたしの時間が一瞬止まった。

 ガラッ!!

「お前ら、こんな時間までなにやってんだ」

 ぎぇぇえぇぇぇ。

 冬海は、あたしに触れてた手を引っ込めた。
 生活指導の吉永だ。男の先生で、体も大きくて強面。つーか、身長156cmのあたしから見ると、巨大なナマハゲに見える。

 小さい子供が見たら、絶対お漏らしする。

「あ、いえ勉強をしgdふぃkdf」

 噛んだし。バッドタイミングだよ、よりによってこんな時に登場するなんて。

「なんだ、幸田。生徒会の仕事か?」

「あ、え、う、はい。あ、いえちょっと勉強したり、宿題とか」

 支離滅裂だ。宿題も生徒会の仕事もしないで居眠りしてました、なんて言えない。

「がんばってんな。遅くならんうちに帰れ、二人とも」

「はぁい」

 2人でハモるように返事をし、その返事はナマハゲ吉永先生が引き戸を閉める大きな音でかき消される。

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