月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 中尾先輩に掴まれた腕が痛かったことを思い出して、なんとなくそこが痛む。そんなわけないのに。


「……だ、抱きしめられて……それだけ」

「……」


 静かな部屋がよりいっそう静かになる。

 梓と美由樹が黙っていてくれたのに、自分で喋ってしまった。中尾先輩が保健室に居たこと。



「なに、勝手に触ってんだ。センパイのこと」

 食べ残しのパンが入ったビニールを、冬海は握り潰す。ガサッという音が部屋に響いた。


「抱きしめて、俺のことやめろってか。笑っちゃいますね」

 豆乳パックを握っていたあたしの手を、冬海が掴んだ。少しいきなりで強かったから、驚いて冬海を見る。

 怖い顔をしていた。怒ってる……?


「……勝手なこと言うなよ」

「と、冬海」


 冬海はあたしの顎を傾け、強引にキスをしてきた。歯を割り舌が入ってくる。

 苦しい。唇を押し付けたままで、そして、肩を掴まれ体重をかけて倒された。


「な、ちょっと」

「中尾先輩に抱きしめられて、俺のこと思い出した?」


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