月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 白い車から降りて、ホテルに入っていく冬海がフラッシュバックした。ホテル街。制服ではなく普段着の。


 ネクタイをゆるめるその仕草、大人の前でも……あなたを買った大人……?


 大人相手に、体、売ってるんでしょ? あいつは、大人に買われて。




 売ってる、買われているって、そういうこと、なんだよね……? シャツのボタンを上から外された。



「い……やめて!」

 冬海の胸を思いっきりこぶしで叩いた。ドンッという鈍い音がする。「いってぇ」という冬海の声。


「なんで嫌がるんだよ……」

 あたしは上半身を起こした。胸をさすって眉間にシワを寄せる冬海。

「つき合ってんだし……俺だって」

 我慢してんだ、とでも言いたいの? バカにしないでよ……。



「……あたしも知らない時に、学校休んでるんでしょ?」

「え?」


 そんな風に言葉が出た。もう、なんて言って伝えたらいいのか分からないよ。


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