月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
強く言われて、思わず目をつぶる。
「……怒鳴ってごめん」
玄関まで行くよう促されて、あたしは従うしか無かった。
傷ついたような顔をしてうつむく冬海。
大人を相手に、これからお金を稼ぎに行こうとする冬海。あたしには、止められないの……?
「とう……」
「いいから、帰ってくれ」
ドアから出ると「ごめん」と閉められてしまった。
足首に何か落ちてくる。下げられた下着だった。すごく情けない気持ちでそれを履き直してスカートも直す。ああ、シャツのボタンも。
ボタンをかけながら、もうなんだか分からなくなって、とりあえず駅に向かって、来た道を歩き出す。
あれ、ボタンが余った。4つくらいなのにかけ違えるなんて。
冬海のアパートに行く前に寄ったコンビニの前を通る。さっきは2人でここを通ったのに、今は1人。
ぽつりと、頬に何かが当たる。上を見上げるとどんよりまた空が曇っていて、雨が降り出してきていた。
梅雨ってうざったい。雨が降って、晴れたと思ったらまた降って。
早く夏になると良いのにね。そんな風に2人で話していたのは、少し前のことなのに。
泣いているのがバレすに済むから、傘を持ってこなくて良かった。
冬海もきっと雨に濡れているだろう。傘を持って出かけるような人じゃないから。
辛いことも悲しいことも、雨が洗い流してくれれば良いのに。
こんな気持ちの時に、人はそう思うんだなって、アスファルトを濡らしていく雨を感じながら、ぼんやり考えた。
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