月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「早く準備しなさい。乗る予定の電車が行ってしまう」

 急に教師の顔になり、吉永先生が言う。えー吉永先生と一緒に冬海の家……って、なんで?

「センセ、なんで? なんで冬……園沢くんの家に?」

 鞄に教科書とかを急いで仕舞いながら、あたしは聞いた。

「園沢、今週ずっと休んでる」

 え? また休んでるのか。今週ずっとって、もう週末なのに。

「学校、来てない……んですか」

「幸田なんか知ってる?」

「いえ……夏休みに1回会ったんですけど。補習の時」

 あんまり思い出したくない夏休みのあの日。

 あの日からもうずっと会ってない。学校で見かけてもいないし電話もメールも無い。10月になって、もう涼しい風が時々吹くようになったのに。


「とにかく、1回行くから。あいつは無断欠席が多すぎる。ケータイしか持ってないから出てくれなきゃ連絡も取れないって担任もボヤいてて。俺は先に駅に行ってるぞ」

 おばあちゃんと2人だから……。度々休んで、しかも無断欠席となると当然、家に連絡が行くし、先生が家に行くことだってあるだろう。

 あたしは鞄を抱えると、教室を先に出て行った先生を追いかけた。足が速いよ、もう廊下に居ないんですけど。

 冬海のアパートへ行く、これから。会えるかな、居るかな冬海。会えるかな……。



 駅まで並んで歩くのもなんなのでちょうど良いけど、とにかく急ごう。

 学校前の坂道の途中に吉永先生が居た。「先生!」と駆け寄る。


「居ると良いんだけど園沢」

「電話……してみます?」

 ちょっと、電話はかけ難いけど。


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